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上肢・手指の関節機能障害とは

上肢の3大関節である「肩・ひじ・手首」や「手指」の関節動作が制限されたり、人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合、関節機能障害として後遺障害が認定されます。

動揺関節習慣性脱臼についても、関節の機能障害として扱われます。動揺関節とは、関節が安定性を失ってぐらつく状態のものです。習慣性脱臼とは、軽い外力で容易に脱臼する状態のものです。

上肢・手指の関節機能障害は、骨折、脱臼、靱帯や腱などの軟部組織の損傷、神経損傷によるマヒなどを受傷した場合に生じます。

後遺障害として認定される条件

上肢・手指の関節機能障害が後遺障害として認められるには、機能障害の原因となる器質的損傷が存在すること、が必要です。

1.事故時に骨折等の器質的損傷が確認されること

まず、交通事故による、関節・関節付近の骨折や脱臼、靱帯・腱などの軟部組織の損傷、神経の損傷などが確認されていなければなりません。

そのため、事故後の早期にレントゲンやMRIなどの画像撮影をしておくことが重要です。事故後にレントゲンが撮影されることは多いですが、関節や関節付近を受傷した場合には、関節可動域制限の原因となりうる軟部組織の損傷を確認するためにMRI画像も撮影しておくことが有用です。

また、医師に、事故直後から自覚症状(肩の痛みなど)をきちんと伝えておく必要があります。事故後かなりの時間を経てから、外傷が判明した場合、事故と外傷の因果関係は否定されることが多いです。しかし、事故直後から一貫した自覚症状の訴えがあれば、後に当該部位に画像検査などで外傷が判明した場合でも、事故と外傷の因果関係を認められる可能性があるからです。

2.症状固定時に機能障害の原因が確認できること

さらに、症状固定時に、関節部分の骨折後の癒合不良、変形癒合、関節の強直、関節周辺組織の変性による関節拘縮、神経マヒなど、関節機能障害の原因が確認できることが必要です。

上肢・手指の関節機能障害の類型


1.関節の器質的変化による可動域制限

関節の器質的変化による可動域制限は、関節それ自体の破壊や強直によるもの関節外の軟部組織(靱帯・腱・筋肉など)の変化によるもの(たとえば阻血性拘縮など)があります。

キュンチャー(骨髄内釘)等を装着し、それが機能障害の原因となる場合は、キュンチャー等の除去後に等級認定を行います。ただし、キュンチャー等の存在が機能障害の原因となっていない場合には、外傷が治癒した段階で等級認定を行います。

廃用性の機能障害(たとえば、ギブスによって患部を固定していたために、治癒後に関節機能障害が残るもの)については、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級認定を行います。

関節可動域は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」という測定要領にしたがって測定します。

測定方法について詳しくはこちら

ただ、測定要領にしたがって、医師が測定したとしても、どの程度まで力を加えて可動域を測定するかは、医師によってバラツキがあります。そのため、測定する医師によって、検査結果の数値が異なる場合もあります。実務上よく見られのが、医師の検査結果が異なるため、労災保険の後遺障害認定と自賠責保険の後遺障害認定の等級が異なっているケースです。


2.神経マヒによる関節の自動運動の制限

神経が断裂するなどして神経マヒが生じた結果、自力で関節を動かすことが困難になった状態です。

交通事故で生じる上肢・手指の関節機能障害で問題になることが多いのは以下のマヒです。

①腕神経叢(わんしんけいそう)マヒ

腕神経叢とは、頚部から分岐して鎖骨上腕前腕へ繋がっている神経の束です。腕神経叢マヒとは腕神経叢部位で生じるマヒです。神経根が脊髄から引き抜かれてマヒになった場合には、機能回復しません。これに対し、末梢神経部で断裂した場合は、一定の機能回復が見込めます。腕神経叢マヒにより、肩・ひじ・手首・手指に機能障害が生じます。

*診断・検査方法

・神経学的検査:知覚検査、徒手筋力テスト(MMT)など

・画像検査:脊髄造影(ミエログラフィー)、ミエロCTMRIなど

・電気生理学的検査:針筋電図検査、神経伝導速度検査など

②尺骨(しゃくこつ)神経マヒ

尺骨神経とは、上腕、肘の内側を通って、前腕部から手先まで走行している神経です。薬指・小指の感覚、手指を動かす動作の筋肉を支配しています。

尺骨神経マヒにより支配筋の筋力低下が生じて、手の関節が曲がった状態で固まる「鷲手変形」となり、機能障害・知覚障害が残ることがあります。

*診断・検査方法

・チネル(Tinel)サイン(神経障害部を叩いて疼痛が放散するか確認する検査方法)

・フロマン(Froment)サイン(両手の親指と人差し指で紙をつまみ、引っ張るときに親指の第1関節が曲がれば陽性)

・電気生理学的検査:針筋電図検査、神経伝導速度検査など

③橈骨(とうこつ)神経マヒ

橈骨神経とは、上腕骨の後ろを走行して、前腕の外側を通って手に向かう神経です。橈骨神経マヒは、上腕骨骨折に合併して発症することが多いです。

橈骨神経マヒにより、筋力低下が生じて、指が曲がったまま手首がダラリと垂れ下がる「下垂手」となり、機能障害・知覚障害が残ることがあります。

*診断・検査方法

・チネル(Tinel)サイン(神経障害部を叩いて疼痛が放散するか確認する検査方法)

・電気生理学的検査:針筋電図検査、神経伝導速度検査など

正中(せいちゅう)神経マヒ、手根管(しゅこんかん)症候群

正中神経とは、肘の前面を通り、前腕の真ん中を通って手首で手根管の中を通過して手に達する神経です。

正中神経マヒにより、親指から薬指2分の1までの感覚障害が生じたり、手首の屈曲、手指の屈曲の筋力が低下し萎縮します。さらに、親指の付け根の筋肉(母指球筋)が萎縮します。

手根管症候群とは、正中神経マヒの一種です。手首にある手根管というトンネルの中で正中神経が圧迫されることで生じます。

*診断・検査方法

・チネル(Tinel)サイン(神経障害部を叩いて疼痛が放散するか確認する検査方法)

・電気生理学的検査:針筋電図検査、神経伝導速度検査など

※関節機能障害の認定は、原則として他動運動(医師などの他者の力で動かせる可動域)による測定値でなされますが、神経マヒによる関節機能障害の認定は、自動運動(自分の力で動かせる可動域)による測定値を参考にして後遺障害認定をします。


3.人工関節や人工骨頭の挿入置換

人工関節や人工骨頭を挿入置換した場合には、上肢の機能障害として後遺障害が認定されます。

人工関節や人工骨頭には耐用年数があるため、将来の再手術により置換することが必要との理由で、将来の手術費が損害として認められることもあります。


4.動揺関節

交通事故による骨折・脱臼・靱帯損傷などで、関節が安定性を失ってぐらつく状態の「動揺関節」となった場合には、硬性補装具を必要とするものについて後遺障害が認定されます。

硬性補装具とは、伸縮性のあるサポーターなどではなく、プラスティックや金属フレームで作成された補装具です。

診断・検査方法

関節に負荷をかけて撮影するストレスレントゲン写真

上肢・手指の関節機能障害の認定基準

上肢の関節機能障害の認定基準

上肢の関節機能障害の認定基準
1級両上肢の用を全廃したもの

両上肢の3大関節(肩・ひじ・手首)のすべてが全く可動しないか、可動域が10%以下に制限されたもの、加えて、手指の全部の用を廃したもの

両上肢の上腕神経叢の完全マヒ
5級1上肢の用を全廃したもの1上肢の3大関節(肩・ひじ・手首)のすべてが全く可動しないか、可動域が10%以下に制限されたもの、加えて、手指の全部の用を廃したもの
1上肢の上腕神経叢の完全マヒ
6級2つの関節の用を廃したもの3大関節(肩・ひじ・手首)のうち2つが全く可動しないか、可動域が10%以下に制限されたもの

完全弛緩性マヒ、または、それに近いもの

※他動では可動するが、自動では可動域が10%以下に制限されたもの

人工関節・人工骨頭を挿入し、可動域が2分の1以下に制限されているもの
8級1つの関節の用を廃したもの

3大関節(肩・ひじ・手首)のうち1つが全く可動しないか、可動域が10%以下に制限されたもの

完全弛緩性マヒ、または、それに近いもの

※他動では可動するが、自動では可動域が10%以下に制限されたもの

人工関節・人工骨頭を挿入し、かつ、可動域が2分の1以下に制限されているもの
10級1つの関節の著しい機能障害

3大関節(肩・ひじ・手首)のうち1つの可動域が2分の1以下に制限されているもの

人工関節・人工骨頭を挿入したもの
前腕の回内・回外の可動域が4分の1以下に制限されているもの
常に硬性補装具を必要とする動揺関節
12級1つの関節の機能障害3大関節(肩・ひじ・手首)のうち1つの可動域が4分の3以下に制限されているもの
前腕の回内・回外の可動域が2分の1以下に制限されているもの
時々硬性補装具を必要とする動揺関節
習慣性脱臼

当事務所の解決実例~上肢後遺障害

●86歳女性 マンション経営 10級 右肘関節の可動域制限(右上腕骨遠位端骨折)

・治療段階からのサポートにより右上腕骨遠位端骨折による右肘関節の機能障害(10級)が認定された例
・不動産賃料収入について、逸失利益が認められた例

手指の関節機能障害の認定基準

手指の関節機能障害の認定基準
4級両手の手指の全部の用を廃したもの
7級1手の5の手指または親指を含み4の手指の用を廃したもの
8級1手の親指を含み3の手指または親指以外の4の手指の用を廃したもの
9級1手の親指を含み2の手指または親指以外の3の手指の用を廃したもの
10級1手の親指または親指以外の2の手指の用を廃したもの
12級1手のひとさし指中指またはくすり指の用を廃したもの
13級1手の小指の用を廃したもの
14級1手の親指以外の手指の遠位指節間関節(DIP)を屈伸することができなくなったもの

遠位指節間関節(DIP)が強直したもの

屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないものまたはこれに近い状態にあるもの

手指の用を廃したとは、以下のものをいいます。

  1. 手指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  2. 中手指節関節(MP)または近位指節間関節(PIP)《おや指にあっては指節間関節(IP)》の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの
  3. おや指については、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の2分の1以下に制限されているものも含む
  4. 手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したもの。ただし、医学的に当該部位を支配する感覚神経が断裂し得ると判断される外傷を負った事実を確認するとともに、筋電計を用いた感覚神経伝導速度検査を行い、感覚神経活動電位(SNAP)が検出されないことを確認することによって認定する

当事務所の解決実例~手指後遺障害

●42歳男性 会社代表取締役 13級 左手小指関節の可動域制限(左小指PIP関節内骨折)

・異議申立てにより、左手小指骨折による可動域制限について、非該当から13級が認定された例
・会社代表者の逸失利益の基礎収入について、個人事業主と同様に算定し、役員報酬を上回る額が認められた例
・事故後の減収がなく、むしろ収入が増加しているにもかかわらず逸失利益が認められた例

上肢・手指の関節可動域の測定要領

障害を残す関節の可動域を測定して、原則として健側の可動域角度と比較することにより、関節可動域制限の程度を評価します。測定値は、5度単位の切り上げで記載します。たとえば、実際の測定値が162度であった場合には165度と記載されます。

健側となるべき関節にも障害を残す等の場合は、「参考可動域角度」との比較により関節可動域制限の程度を評価します。

関節の機能障害は、原則として主要運動の可動域制限の程度によって評価します。

ただし、上肢の3大関節(肩、ひじ、手首)の主要運動の測定値が「わずかに」2分の1または4分の3を上回る場合には、参考運動の可動域が2分の1または4分の3以下に制限されているときは、「関節の著しい機能障害」または「関節の機能障害」と評価されます。

この場合の「わずかに」とは、原則として5度です。ただし、以下の主要運動について、「関節の著しい機能障害」にあたるか否かを判断する場合は10度とされています。

  • 肩関節の屈曲、外転
  • 手関節の屈曲・伸展
部位主要運動参考運動
 肩関節屈曲、外転・内転伸展、外旋・内旋
 ひじ関節屈曲・伸展
 手関節屈曲・伸展橈屈、尺屈
 前腕回内・回外 
 親指屈曲・伸展、橈側外転、掌側外転 
 手指屈曲・伸展 

肩関節の可動域測定要領

肩関節は、主要運動が複数あります。「屈曲」と「外転・内転」が主要運動です。「外転・内転」は合計値をもって評価します。

「伸展」と「外旋・内旋」が参考運動です。外旋・内旋」は合計値をもって評価します。

「屈曲」と「外転・内転」のいずれの主要運動も全く可動しないかまたは可動域が10%以下に制限された場合に「関節の用を廃した」と認定されます。

「屈曲」と「外転・内転」のいずれか一方の主要運動の可動域が、2分の1以下または4分の3以下に制限されている場合に、「関節の著しい機能障害」または「関節の機能障害」と認定されます。

 

肩関節の可動域
運動方向屈曲伸展外転内転外旋内旋
参考可動域角度1805018006080

 

肩関節可動域

ひじ関節の可動域測定要領

ひじ関節は、「屈曲・伸展」が主要運動です。ひじ関節の可動域は「屈曲・伸展」の合計値をもって評価します。ひじ関節には参考運動がありません。

 

ひじ関節の可動域
運動方向屈曲伸展
参考可動域角度1455

ひじ関節可動域

手(手首)関節の可動域測定要領

手関節は、「屈曲・伸展」が主要運動です。手関節の可動域は「屈曲・伸展」の合計値をもって評価します。

「橈屈」と「尺屈」が参考運動です。

 

手関節の可動域
運動方向屈曲伸展橈屈尺屈
参考可動域角度90702555

手関節可動域

前腕の可動域測定要領

前腕は、「回内・回外」が主要運動です。前腕の可動域は「回内・回外」の合計値をもって評価します。前腕には参考運動がありません。

 

前腕の可動域
運動方向回内回外
参考可動域角度9090

前腕可動域

親指の関節の可動域測定要領

親指は、「屈曲・伸展」、「橈側外転」、「掌側外転」が主要運動です。「屈曲・伸展」については合計値をもって評価します。親指関節には参考運動はありません。

 

親指関節の可動域
運動方向橈側外転掌側外転屈曲(MP)伸展(MP)屈曲(IP)伸展(IP)
参考可動域角度609060108010

親指関節可動域

手指(親指以外)の関節の可動域測定要領

手指は、「屈曲・伸展」が主要運動です。「屈曲・伸展」については合計値をもって評価します。手指の関節には参考運動はありません。

 

手指関節の可動域
運動方向屈曲(MCP)伸展(MCP)

屈曲

(PIP)

伸展

(PIP)

屈曲(DIP)伸展(DIP)
参考可動域角度90451000800

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